ごあいさつ
この度の地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
熊本市現代美術館では、好評のうちに開催されていました「だまし絵王エッシャーの挑戦状」展を、地震の影響で中断することを余儀なくされました。館内では展示作品は、傾いたり壁から落ちたものもありましたが、おおむね無事でありました。余震が続く中、安全確保のために展示されていた作品はすべて壁からおろし、より安全な保管庫に納める措置を取りました。
その後、多くの市民、県民の皆さまからエッシャー展再開のご要望をいただき、私たちは館内の補修や補強工事を進めながら再開の可能性を模索しました。ギャラリーT・U(大展示室)は、展示用可動壁の安全確認にしばらく時間がかかります。一方、新たなバージョンのエッシャー展を、すでに整備が終了したギャラリーVと井手宣通記念ギャラリーの2室を使って、無料で開催することに漕ぎ着けました。内容は、エッシャーの真髄を示す選りすぐりの作品約40点で構成されます。
エッシャーは、20世紀のどの美術運動にも所属しませんでしたが、彼は、他の時代の先端を行くアーティストたちと同様に、歴史感覚に優れ、尖鋭でありました。そしてエッシャーは、日本では福田繁雄を始めとするアーティストやデザイナーに新たな創造を促し、またイギリスではその影響が、ミック・ジャガーやデイヴィッド・ボウイ等、ロック・ミュージッシャンたちにインスピレーションを与えています。現在、本展のようにエッシャーの代表作がまとまった形で展示される時、このグローバル化したデジタル社会においても、その作品から強い現代性を感じ取ることができます。
大地震被災の厳しい状況の中で、この特別展示によって熊本市現代美術館が、さらにアートのあるくつろぎの場となり、街なかに賑わいを添え、復興の道筋の一助となることを願っています。
熊本市現代美術館館長 桜井 武
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